「見えない壁がある」:ゲイのメディア役員の告白
この数年で、メディアと広告業界は飛躍的に多様化した。それでも多様化の推進はまだ業界の隅々にまで及んでいるとはいえない。かなり進んでいる分野もある一方で、企業文化にはまだまだ改善の余地が残されているのが現状だ。



業界人に匿名で本音を語ってもらう 「告白」シリーズ。今回は、メディアでは「男の輪」の文化に入り込めないと出世できないと語る、経験豊富なメディアの男性役員に話を聞いた。



なお、以下のインタビューは内容を明瞭にするため若干の編集を加えている。



――ゲイとして、メディア業界に身を置くというのはどんな感じか?





表向きには、メディア業界はゲイにとって非常に居心地の良い場所に思えるだろう。メディアの持つ創造性やコンテンツ、クリエイティブな広告といったさまざまな場面で、男性や女性の同性愛者は強く前面に押し出されている。だが実際は、この業界にもまったく多様性に欠けた側面がある。ゲイに関してもそれは同じだ。絶対になかに入れてもらえない輪があって、自分が蚊帳の外に置かれているような孤独を感じることがあるよ。



――それはどういった場面だろうか?





デジタル広告のエコシステムが特にそうだろう。つまり、アドテクやプログラマティック、データテクノロジーといった分野だ。



――蚊帳の外というと、具体的にどういう出来事があるのだろうか?





どれだけ役職が上になっても、それまでの役職でどれだけ影響力を発揮できていたとしても、メディアエージェンシーのスキー旅行に呼ばれることはなかったし、会社から外国のラグビー関連の重要なクライアントの担当に指名されることもなかった。別に同性愛嫌悪だとはまったく感じなかった。それよりも、単に男の輪のなかに入れてもらえていないと感じていた。それでも、なんとか馴染んでうまくやっていかなきゃいけない。だけど、我々はゴルフコースで契約を取り付けるなんていうのは不可能だ。それが辛いと感じることもある。輪のなかに入れないと、見えない壁があって先に進めないように感じるものなんだ。上にたどり着くためには輪のなかに入れてもらわなきゃいけない。



――つまり、その輪のなかにいないと、出世できないということか?





その通り。そうした人脈は価値があるからだ。ゴルフコースで契約を取り付けるなんて使い古されたやり方に聞こえるだろうが、実際にゴルフコースで契約を得る例は昔よりも増えているよ。そのなかに入れないと、上へ行くのは難しいものだ。自分だけのやり方を探し出さなきゃいけない。私はなんとかやり方を探し出したし、自分なりのやり方を見つけ出した、ほかのゲイたちのことも知っているけど、やはり容易じゃない。LUMAscape(ディスプレイ広告の業界地図)を見ると、色彩豊かに見えるだろうけど、実際はまったくそんなことはない。彼ら(アドテクの役員)がこうして事業を育て上げたのは本当に素晴らしいことだと思っている。彼らのスキルはとてつもない。ただ、非常に画一的な業界になってしまっているんだ。



――多様性が欠けていることで事業に影響があると思うか?





もちろん。多様性は重要だ。多様性があると、より優れ、よりインクルーシブ(包括的)な文化が生まれるからだ。そうすると、企業や業界があらゆる背景の人たちを惹きつけることができる。もし企業のリーダーが異性愛者の白人男性のような画一的な人ばかりだったら、それはまさに不健全だろう。



スナップ(Snap)社を最近退社したエンジニアのシャノン・ルーベティック氏が、社員1300人に送ったメールには胸を打たれた。彼女のメールには、「エンジニアにこんな人がいたって良いじゃないか」と書かれていた。「異性愛者じゃない人、結婚して子供を持ちたいと思わない人」「レッドブル(Red Bull)やお酒を飲まない人」「有色人種」「女性」……。



業界のイベントでは、男らしさばかりが目につく。そんななかで、女性は目立つ。女性の数は少なく、もしかしたらゲイの男と同じように感じているかもしれない。たまに思うんだ。この多様性の欠如が、この業界に入ってくる人の目にどう映るのか。魅力的な業界に見えないんじゃないかって。



――業界のそういった部分で多様性が広まらないのはなぜか?





新しいテクノロジーを構築してマーケットに届ける必要があるからかもしれない。ものすごく高慢で勇敢で、自信に満ちていないとできないんだ。だけど同時に、心の知能が足りていないと感じることも少なくない。苦手分野と言ってもいいだろう。アドテクベンダーだけじゃない。私はこれまでテレビや新聞、雑誌業界を渡り歩いてきた。各業界に男の派閥は確かにあったが、それでももっと混ざり合っていた。アドテクの業界はそうではない。この業界では男の派閥ははるかに強くて、考え方やアプローチに多様性がない。



――それでも良くなってきている部分もある?





それは確かだ。可愛い女の子をミーティングに連れて行くように指導されるようなことはもうなくなった。昔はカンヌ(ライオンズ)に行くときは必ず連れて行くように言われた。まるでそうしないと会話に入れないみたいに。カンヌは素晴らしい。だけど同時にこの業界の一番悪いところも発露してしまう。あそこではそういった業界の悪い面も目立ってしまうんだ。



――これから良くしていくにはどうすればいいだろうか?





アドテクの役員ポジションにもゲイが必要なのは間違いない。そうしたなかで、もっと目立つ形でロールモデルになるような人が出てきたらと思う。もっと多様性が目につくようになれば変わっていくだろう。
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